
J・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」
5作目にして完結編『ミネルヴァ計画』の感想です。
前巻の感想
あらすじ
エントヴァースの事件を解決して地球に戻ってきたハント博士を、驚愕の事態が襲う。並行宇宙に存在する、別バージョンの自分自身から通信が入ってきたのだ。ハントたち地球人とテューリアンは協力し、マルチヴァースを横切る時空間移動の可能性を探る。一方、かつてクーデターに失敗して逃亡し、5万年前の惑星ミネルヴァ近傍で再実体化したジェヴレン人ブローヒリオたちは、ひそかに再起を図っていた……月面で発見された宇宙服姿の遺骸は5万年前のものだった、という壮大な謎を端緒とする不朽の名作『星を継ぐもの』に続く、シリーズ最終巻!/解説=渡邊利道
【以下ネタバレ注意!】
ハントだらけ
毎回衝撃的に拡大し続ける巨人たちの星シリーズもついに宇宙そのものが拡大。今度はマルチヴァースもの!
もうひとりのハントからの通信が入るという最高のツカミから入り、「記憶違い」などの小さな奇妙な出来事から徐々に奇々怪々な出来事が頻発するように。
そしてついには人間が複数人ずつに増えちゃう大パニックが巻き起こるスラップスティックな大騒ぎに発展しちゃう。
前半のこの、どんどんおかしなことになってゆく流れは非常に楽しかったです。いったい何が起こっているんだと、まるでわけがわからない感がすばらしい。
ハントもダンチェッカーも大量に出て来ちゃう場面とか最高すぎます。
ドラえもんの名作エピソード、「ドラえもんだらけ」を彷彿させます(笑)。
私達もマルチヴァース!?
昨日約束したじゃないか、いいやそんな約束してないぞっていうような、私達にも身に覚えのある、物を失くしたり、「言った」「言ってない」のすれ違いをしたりと、そういった記憶違いをマルチヴァースで説明しているのがまた素敵。
すべてがそうでないにしても、もしかしたら私たちもマルチヴァースを経験しているかもしれないよっていうワクワクものの提言です。
ホーガン先生、実生活でそういうトラブルを経験してこのアイデアを思い付いたのかもしれませんね(笑)。
歴史改変!
ついに成功したマルチヴァース探査!
その理屈こそ正直チンプンカンプンではあったのですが(笑)、それにしてもひとつひとつ段階を踏んでマルチヴァースに人間を送り込むことに成功するまでに至るプロセスはワクワクがとまらない。
しかしホーガンがすごかったのはここからだった。
ほとんどのマルチヴァースものは思いもよらないような並行宇宙の奇妙奇天烈さを描いたり、その出会いによって変化する自分たちの宇宙を描いたりすることに終始すると思うのですが(と言ってもそんなに多くは知りませんが)、ホーガンはさらに大胆に踏み込んでくれました。
なんと並行宇宙の歴史に踏み込んで、ミネルヴァの滅亡を阻止してしまおうというわけです。
普通なら歴史の改変、介入は禁忌となりそうなところ。
でもホーガンは踏みとどまらない。
マルチヴァースなのだからタイムパラドクスは生じない。
そもそも滅亡することがわかってるのに指をくわえてただ見ているだけなのかと問いかける。
もちろん介入できるのはただ一つの世界のみ。
ほかに無限に存在する宇宙ではミネルヴァはやっぱり滅びているのでしょう。
それだとしても、袖触れ合ったたったひとつの並行宇宙を見捨てる理由になるのだろうかということでしょう。
この視点はけっこう震えるものがありました。
そうだよなと。
人間ってそういうものだよなと。
スケールをマルチヴァースから普段の日常に落とし込んで考えたとすれば、隣の家に火がついてこのままだと火事で全滅することが明らかなのに、助けないんですか?ただ見ているだけなんですか?ってことですものね。
そりゃあ助けるか。
たとえ世界にはほかにも火事で焼けちゃう家があったところで、戦争でもっと悲惨なことになる家があると知っていたところで、それが隣の家を助けないことの合理的な理由とはとうてい思えないということです。
なるほど、そりゃ助けたいって思うのが人情ですわ。
そしてほのめかされるマルチヴァース共同体のような概念に強烈に想像がかきたてられる。そんなの考えたこともなかったよ!
あたかも人や地域が共同体を形成するように、マルチヴァースが合わさって共同社会を形成するのか。
影響しあい、助け合い、互いの利益を共有し、苦しい時に手を差し伸べあう互助関係を、マルチヴァースで作っちゃおうと。
とてつもないスケールの概念だ!
やっぱりシャピアロン号!
そしてやっぱり切り札となるのは我らがシャピアロン号!
ガニメデの優しい巨人で登場して以来、ずっと「主人公艦」としての役割を全うし続けているのがすごいですねー。
全システムが一元的に管理されているテューリアン文明のなかで、独立して行動できるのはシャピアロン号のみ。だからこそここぞというとき頼りになる。
考えてみたらテューリアン文明もいざというときにシャピアロン号みたいな独立システムをいくつか予備に作っておいた方がいいんじゃないですかね(笑)。
5万年前の戦い!
かくして突入! 5万年前の滅亡寸前の惑星ミネルヴァへ!
懐かしのブローヒリオとの再戦となったわけですが、今回はブローヒリオだけじゃなく、5万年前のミネルヴァを支配しようともくろむフレスケル・ガルという強敵も登場。
このミネルヴァ人のフレスケル・ガル、てっきりブローヒリオにいいように操られるだけかと思いきや、策略や胆力に優れ、みごとにハントたちを罠にハメてしまったり、たいした役者じゃないですか。
敵ながらアッパレ。
なかなかのクセモノです。
フレスケル・ガルの策にひっかかり、おびき寄せられ一網打尽にされちゃったハントと、それを人質にブローヒリオによって完全に制圧されてしまったシャピアロン号という大ピンチ。かなりの絶望感でした。
いやー、あいかわらずストーリーテリングが上手すぎる。
大逆転は「ブローヒリオだらけ!」
そして大逆転はやっぱりハントがやってくれた!
何をやるかと思ったら、ハントたちが増えまくっちゃった例の現象を、わざと引き起こす!
それだけでも大混乱なのに、さらにはランダムで生まれるマルチヴァース宇宙のなかから、ブローヒリオたちがいない宇宙をピッタリ目押しで止めて「選んで」しまう!
いやもうこのへん、なにもかもが衝撃的でした。
ハードSFとエンタメの見事すぎる融合。これぞホーガン一流のやり口と言うものです。
いやー、参りました。
大団円
かくして完結した巨人たちの星シリーズ。
月で発見された謎の宇宙服から始まって、最後はマルチヴァースを巻き込んだとてつもないところまで人類を導いてしまいました。
一巻ごとにテーマ性も方向性もガラリと変えて、でも一貫して人類を前へ前へと進ませてゆく、そのエネルギッシュな力だけは変わりません。
そしてどの巻をとっても、思考が飛躍するハードSF的な快感と、物語にふりまわされる娯楽小説的な快感と、どちらもハイレベルに楽しめる素晴らしいシリーズでもありました。
やっぱりホーガンは最高だなーと。
今年、学生時代以来ン十年ぶりに読んだホーガン小説の数々でしたが、あらためてそのでっかい魅力に気づかされました。