オーク版の日露戦争を思わせるような「銃と魔法」の異世界軍記ファンタジー、「オルクセン」2巻。読了です。
前巻の感想
あらすじ
オークの国オルクセンの王グスタフ・ファルケンハインは、聡明かつ穏健な牡(おとこ)である。
だが、オーク族の悲願達成と、自らを頼りとする臣下国民のためならば、ときに狡猾な策をも弄する。それが、今回の対エルフィンド開戦にまつわる「奇策」だった。
エルフたちの国――故郷エルフィンドで卑劣な虐殺と迫害の憂き目に遭い、白エルフたちに復讐を誓いオルクセンに身を寄せた黒エルフの氏族長ディネルース・アンダリエルは、今や名実ともに「王のもの」となった。愛する牡との充実した幸福感に包まれる日々は瞬く間に過ぎ、水面下でじわじわと準備を進め牙を研いでいたオルクセンは、ついにエルフィンドに宣戦布告を行うのだった……。
圧倒的な筆致でえがく「銃と魔法」の異世界軍記ファンタジー、待望の第2巻登場!!
【以下ネタバレ注意!】
- あらすじ
- なぜエルフを滅ぼすのか
- 転生者であるからこそ
- 王とディネルース
- 兵站とは
- ケース・ジルバーン
- 視点
- 生きた知恵
- 合体!
- 恨みの渦
- 苦節120年
- その時歴史が動いた
- 鉄道輸送の大変さ
- ディネルースの炎
- 汝のご安航を祈る
- カウントダウン
なぜエルフを滅ぼすのか
なるほど~、グスタフ王がなぜエルフを滅ぼそうとしているのか、その理由に納得。
オルクセン周辺の人間の国は目覚ましく技術発展し、いずれはオークの国は置いて行かれ、滅ぼされてしまう。おそらく第二次世界大戦のようなものが起きたらオルクセンは終わる。そのときのためにエルフを滅ぼし、オークに手を出したらダメだという禁忌の国にしなければならないと。少なくとも冷戦時代のような、ある程度安定した国際環境が構築される時代までは閉じこもるために、そのためにエルフを滅ぼすのだと。
寿命が非常に長い魔種族のオークだけに、考えなければいけない先々の時間的スケールが全然違って面白いなーと感じました。魔種族にとっての人生設計はすなわち歴史設計でもあるのだなと。これはSF的な斬新な視点ですわ。
転生者であるからこそ
またこの話には主人公を転生者にした理由も納得できるものがありました。地球の歴史の流れに奇妙に似ているこの世界だから、グスタフ王にはこの先々の流れも大まかに予想できてしまう。迫りくる危機に対処せねばとリアルに考えられるわけですね。面白い構造だなー。
王とディネルース
ディネルースと王の艶っぽい話題の遠回しな表現が品があって良いなー。
淡々と冷たいのではなくて、とても公平な感じと言ったらいいのかな。
そしてディネルースの噂が流れ出したダークエルフ衛戍地。口さがない者たちの下品な噂ではなく、自分たちのためにディネルースが自らを犠牲にしたのではないかというのがそれらしい。
ここでディネルースの機転を利かせた演説も気持ちいいシーンです。
噂を払しょくするのは自分の名誉のためではなくて、王のため、隊員の王への忠誠のためというのがとてもよい。
またこのエピソードでは名前のないダークエルフたちがとても人間味を帯びてきて、魅力的で可愛く見えてきました。
ああ、コイツラを死なせたくないな~と思えてきます。
兵站とは
参謀グレーベンが頭を悩ます兵站の難題。
知れば知るほど兵站というものがいかに難しく、戦争なんて無理ではないかと思えてくるから不思議なものです。
大河を挟んで向こう側に大砲や砲弾、兵員、馬車、列車、食料品や衣料品に加えて軍馬用の水、飼料まで。あらゆるものを膨大に運ばなきゃいけなくて、ちょっと間違えばたちまちどこかで滞り血栓が生じてしまう。これをいかに運ぶのか。
いやー、なんて大変な仕事かと。
ちょっと想像するだけでも果てしがなくてため息が出て来そう(笑)。
ケース・ジルバーン
ついに決定した侵攻作戦『白銀の場合(ケース・ジルバーン)』。
三方向から三軍団が同時侵攻し、連携を取りつつ様々なケースに合わせて対応する高度に流動的な作戦だ。
兵士の練度や士気、兵器の性能等、質の面では圧倒的にオーク側が有利そうですが、数的な有利はさほどでもなくて、地の利を考えると敵のほうに軍配が上がるわけで。聞けば聞くほどやや不安にもなってきます。
しかしこうやって先に作戦の詳細が読者に明かされると、それがどこかで躓くんじゃないかとも思えてきちゃうんですよね~(笑)。
もちろんタイトルがタイトルですから最後はオルクセンが勝つのは分かっていても、どういう経路をたどるかはわからない。
できるだけ損耗の少ない勝利がえられればよいけれど。
視点
王国史とあるからには、この小説は後の世の歴史家が記したものなのか、それとも同時代の者が書いたのか。
神の視点ではなくて、文体のそこかしこから、この世界に住む“書いた人”の存在がそこはかとなく感じられてよいです。
作者・樽見京一郎氏はオルクセン世界で書かれた一冊の書物を手に入れて、それを日本語訳しているのがこの作品……というふうに読めるんですよね~。そこがいい。
生きた知恵
シェイクスピアのような文学を愛しつつ、兵たちの前では剛の者であり続けるシュヴェリーン上級大将。知恵だなぁ。
そのやりかたが正解か不正解かではなく、その人が生きて積み重ねてきたものがそのものにとっての生きた知恵となっているという感じ。こういうのが小説の生きた人間を感じさせるんだよなーって思います。
合体!
大鷲部隊、コボルト空中合体!(空中合体ではないがw)
漫画だと最初から騎乗してたけ気がしたけど小説ではここで誕生したのかー。
ほんとうに開戦直前まで試行錯誤、いろんなことを考え大胆に挑戦していっている感じが素晴らしい。
あと「パイロット」って言葉は昔、水先案内人を示すものだったのね。
恨みの渦
エルフ王国エルフィンド、いろんな人の恨みを買ってたんだなぁ。
コボルトの大商人に、ドワーフの職人に、船会社の社長に。
これはオルクセンに住む者たちが心から望む悲願の戦争でもあるのだなと。敵をたくさん作って、国外にも国内にも理不尽に振る舞って、それで滅ぼされるエルフはまさに自業自得じゃないかと。
読者がこの作品を読んでいて敵国側があまり可哀想とは思わないで済むような工夫がされています。
またこの戦争が、グスタフ王や重鎮たち上の人たちが勝手に起こした戦争ではなくて、国民の総意(と言ってしまったら言い過ぎかもだけど)というか、おおいに国民感情に乗っている、多くの人たちが一塊の熱エネルギーとなってうねるように雪崩れ込んでいった戦争だったのだということがよくわかります。
そしてそんなふうに生きた心をもつ無数の人々の想いがあればこそ、戦争準備にも力が入る。多くの協力が得られる。オルクセン一丸となってぶつかって行ける。
読んでるこちらもなんだか無性に熱くなってきちゃいます。
苦節120年
騎兵部隊へのガトリングの導入。
それを見せつけられたものが感じる当然の抵抗感をしっかり受け止めつつも、いかにして効果的に利用するかを理解させる。一番の古株であろう老将に丁寧に受け入れさせるのだからグスタフ王のこれまでの慎重なやり方も想像されるというものです。
大きなマテバシイの実のエピソードもそうですね。
転生者が元の世界の知識を導入したからってそう都合よく世界が変わるものじゃない。ひとつひとつ大変な試行錯誤が必要だし、それを受け入れる人々の意識を変えてゆくのだって大変ですよ。
120年の努力、みなと築き上げてきたことはきっととてつもなくたくさんあっただろうなと。
普通の異世界転生ものならそちらをむしろ描くでしょうにね。そして現在のオルクセンの段階に到達するまでに何十巻をついやしていることでしょう。
そんな血のにじむような壮大な積み重ねの結果が今なのだなーと。
オルクセン完結後にオルクセンゼロとしてそちらが描かれたりするかもしれないですね。
その時歴史が動いた
決定的な開戦事由を手に入れたオルクセン。
きっかけはエルフィンド側の外交親書中の、あまりにも不注意な言葉遣い。
これは個人的に方広寺鐘銘事件を思い出しましたが、あれはさすがに家康の難癖レベルが高かったように思いますが、こちらは聞けば聞くほど「いやそれはエルフが迂闊すぎだろう」と思えてきます。日本周辺になぞらえれば「日本海周辺から出ていけ」ってお隣の国から言われたようなものですものね。
それこそエルフの傲慢すぎる、人を見下した尊大さの表れか。
身から出たサビというものです。
エルフィンドという国の、爛熟がすぎて腐り落ちようとしているその証にも見えますわ。
鉄道輸送の大変さ
もよおすものがあれば、その場で立って尻をまくれ、前をだせと命じられることさえあった。
って、その場で垂れ流しということか~。これはなかなかにキツい。座席にトイレの穴くらい空いてたのかな。
輸送中に兵を降ろすわけには行かないというのはすごく理解できる話ですけど、それにしても垂れ流しかぁ~と(笑)。
号令一下、せきを切って動き出した全軍。何十万という兵力を、物資を戦場となる最前線へ滞りなく素早く送り出す。魔法のような魔法ではない離れ業だとあらためて感じ入ります。
ディネルースの炎
グスタフの側にダークエルフの近衛隊をつけたときのディネルースの注意事項。
この激しい気性、いいよね。名場面だ。
このあと繊細な宣戦布告の時間を計算する王に「外交よりよほどタチが悪い」と言われているのが笑えてしまいます。
汝のご安航を祈る
出港する軍艦を見送りに来た100人ほどのひとたち。
港湾監視事務所からの
「汝のご安航を祈る」
というメッセージと見送る者たちの明るい歌に思わず涙あふれる。
人々の思いが一丸となってみせる熱量。人々のあふれんばかりの思いが胸に来る。
カウントダウン
この巻は、刻々と開戦の時間が迫るカウントダウン感が素晴らしかった。漫画版で読んでるのに緊張感と期待感がしっかりと迫ってきてむくむくと高揚感がふくらんで来る。
漫画版はこのあたりまでしか読んでいないので、次の巻からいよいよ未知の領域へ突入するぞというわくわく感があります。
かくしてついに開戦!
アンファングリア、進軍開始!
たぎる!!
この作品はいいところで巻が途切れるなぁ~(笑)。

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