
J・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」3冊目読了~。
ほんとはだいぶ前に読み終わってたんだけど体調が思わしくなくてようやく感想。
前巻の感想
あらすじ
冥王星の彼方から、〈巨人たちの星〉にいるガニメアンの通信が再び届きはじめた。彼らは地球を知っているガニメアンとは接触していないにもかかわらず、地球人の言葉のみならず、データ伝送コードを知りつくしている。ということは、この地球という惑星そのものが、どこかから監視されているに違いない……それも、もうかなり以前から……! 5万年前に月面で死んだ人々の謎、惑星ミネルヴァを離れたガニメアンたちの謎など、絡まった謎の糸玉がみごとに解きほぐされる。星雲賞を受賞した不朽の名作『星を継ぐもの』に続く、シリーズ第3弾!/解説=山之口洋
【以下ネタバレ注意!】
- あらすじ
- 感想
- 手を変え品を変え
- 謎めいたテューリアンとの駆け引き
- 闘争心と礼儀作法
- 極めて発達した電脳空間
- ジェヴレン人の陰謀
- ダンチェッカーの変化
- リンの潜入捜査
- 直接対決の舌戦!
- 宇宙戦争開幕!
- 大勝利!
- 見事な円環
- 人類の明日
感想
原題:Giants' Star
日本語訳のとき、タイトルにちょっと悩んだでしょうね。そのまま訳したら巨人の星ですもん(笑)。
手を変え品を変え
冗談はさておき、シリーズ3冊目にして当初の予定ではおそらくシリーズ完結編として構想されていたであろう本作は、これまでの2作からまたもやガラリと雰囲気を変え、ハリウッド映画のようなエキサイティングなシーンも満載な、知的興奮溢れる作品でありました。
1作目『星を継ぐもの』が人類と太陽系の2500万年の謎を解き明かすSFミステリーだとすると、2作目『ガニメデの優しい巨人』はまったく異なるベースを持つ異星人との交流を通して地球人類の本質にもう一度スポットを当てるファーストコンタクトもの。
そしてこの3作目『巨人たちの星』は、ハラハラドキドキが止まらない情報戦、諜報戦から、壮大な”宇宙戦争”までもが勃発する、ポリティカルサスペンス&スペースオペラのような痛快娯楽大作となっておりました。
いやー、一冊ごとにまったく味わいの違うことをやってくれるんですから、ホーガンの引き出しの多さには舌を巻くばかりです。
それでいてシリーズでは一貫して「人類とは」を考えさせてくれるところは変わらない面白さが描かれているのがとてもよい。
謎めいたテューリアンとの駆け引き
物語前半は、巨人たちの星ジャイスターに移住したガニメアンたち、テューリアンとの駆け引きが面白かった。
ネタが明かされれば単純明快なのだけど、ジェヴレン人に騙されていたテューリアンは疑心暗鬼に陥っており、何が正しく何が間違っているのかわからないから地球人類との交流にも非常に慎重。
地球人類側も米ソの駆け引きと、その裏に暗躍するジェヴレン人工作員の操作があるため思惑や情報が錯綜し、非常に動くのが難しい。
このあたりのすれ違いは勘違いコメディじみたところもあり、少々読んでいて混乱しないでもなかったのですが、悪戦苦闘する登場人物たちが非常に魅力的でグイグイ引き込まれました。
特に死を覚悟でアメリカ側に協力を申し出るソ連の代表ソブロスキンとかめちゃめちゃかっこよかった。
また、いかにも憎たらしい敵役として登場したスヴェレンセンも、その傲慢なふてぶてしさ、嫌らしさもここまでいくと気持ちいいくらいです。
闘争心と礼儀作法
そんな中でなんとか接触することに成功したハントたちとテューリアンたちが、最初の印象がやや険悪な感じになると言うのが面白かった。
テューリアンたちが疑うのはごもっともだし、そのやや強引なやり方も筋が通っているというのはよくわかる。
しかし地球人側にしてはだいぶん礼を失したやりかたなんですよね。
騙し討ちするように不意打ちで地球人を前後不覚に陥れ、ハントらに極めて強い不快感を味わわせたり追い詰めたり。
地球人の勝ちから言えば非常に失礼な話。
でも考えてみたら、礼儀というのは闘争心のない社会では必要がないのかもしれないなと。
もちろんどんな社会でも、その社会における一般的な交流のマナーというのは発生すると思います。交流するための共通ルールというのはあってしかるべきでしょう。
しかし地球人文化における礼儀作法というものは、その基礎部分が「私はあなたに敵意を持っていませんよ」「私はあなたを攻撃しません」ということを相手に伝えることをその主目的としたものだと聞いたことがあります。
日本でお辞儀をするのは首を差し出し斬られても文句を言いませんという証とか。
欧米で対話時に足を組むのは、瞬時に立ち上がれないようにして攻撃を互いに封じるためとか。
なにかと地球人の礼儀作法には「攻撃」を前提としたものが多いような気がします。
何か失礼なことをしてしまった場合は、それは私の意図するところではありませんでしたと、お詫びして訂正し、重ねてあなたに無礼を働くつもりはありませんと伝えたりする。
それが地球人の共通認識なような気がするんですね。
それは、地球人は、知らない相手はまず警戒しなければいけないから。
知らない相手は自分を攻撃してくる可能性があり、それに対して身を守らなければいけないから。
そういう前提があるから、いいえ私は攻撃しませんよという意思表示が交流の際には最重要になってくる。
地球人文化における礼儀作法と言うのはそういうもののような気がするのです。
それに対してガニメアン、テューリアンは本質的に闘争心を持っていない。
相手を攻撃したりすることはないし、そもそも攻撃されるかもしれないという警戒心、防衛本能のようなものも持っていない。
文化の根底に闘争が存在しない。
他者と交流する際に働く心理がそもそも違うのですね。
だから礼儀作法も、おそらく全く別の意味を持っている。
もしかしたら地球人が持っているような礼儀作法は、ガニメアン、テューリアンたちは持っていないのかもしれない。
彼らが持つそういった作法は別の目的で醸成された文化なのかもしれません。
そういったこともあって、このハントたちとテューリアンたちのファーストコンタクトはこんなふうなやや礼を失した感じになってしまったのかもなと思ったんですよねー。
ハントたちが頭脳明晰で相手の事情を察することができ、理路整然と現在の状況を分析できたからこの交流がうまくいっただけで、もしもっと違ったタイプの地球人がこの場を担当していたらもっと不幸な出会いだったかもしれません。
極めて発達した電脳空間
めちゃくちゃ便利だなー!
単なる電脳空間じゃなくて、光の速度の限界すら越え、何十光年離れたかなたとも完全同期できる電脳空間!
とてつもない技術じゃないですか!
もはやこれだけのことができるならガニメアンたちは自分の肉体すらいらなくなっちゃうんじゃないかとか思ってしまいます。
すくなくともめっちゃ運動不足になりそうです(笑)。
ジェヴレン人の陰謀
地球人類の歴史の陰で暗躍し、人類史を操ってきたジェヴレン人たち。
地球各地の神々の信仰も宗教もオカルトも、ぜんぶジェヴレン人のせいなのか!?
これは非常にわくわくさせられるアイデアですねー。
あの伝説もこの宗教もジェヴレン人の工作員のしわざなのか?とか想像が果てしなく膨らみます。
人類の歴史は、最初からすべていいように操られていたのかと。
そしてそんな敵に対していったいどうやったら勝てるのか、かなり途方に暮れてしまいます。
しかし宗教がなかったほうが人類はもっと早く発展できたというのは、実際はどうなのかはわかりませんが科学と人類の可能性をとことん信じるホーガンらしい世界観だと思います。
それにしてもキリスト教社会の作家でありながらすっごい大胆な作品をお出しししてくれたんですねー。当時バッシングされたりしなかったのかなとちょっと心配にもなったりするくらい。
また、米ソ冷戦が終わって世界が平和になっていたこのシリーズ世界の秘密も、ここで明かされたことになるんですね~。
やけに平和になっていたこの世界情勢が、現実の世界と大きく乖離していてこれはどうしてなんだろうとちょっと気になってはいたのですが、なるほどジェヴレン人の仕業だったのかと。
はじめから仕掛けが用意してあったんだなーと、すっかりしてやられました。
ダンチェッカーの変化
ジェヴレン人が地球人類の科学を遅らせていたという仮説を、カレン・ヘラーから聞いたダンチェッカー。
以前のダンチェッカーなら聞く耳持たないような、仮説に仮説を重ねたような話。当然ダンチェッカーなら鼻であしらってしまうわけですが、最後は折れて譲歩したというのはダンチェッカーもハントの影響を受けたのかな~と。
このあたりのダンチェッカー、可愛かったですね(笑)。
ハントは発想を飛ばす天才だけど、ダンチェッカーはあくまで証拠を集め、そこからパズルを組み立てる天才だと思うんですよね。
だからダンチェッカーはピースが集まらないうちからパズルの全体像を予想しすぎることを嫌っていたのに、ここで大いに譲歩してみせる。
たがいにちょっとずつ影響を与え合うのはバディものの王道です。
またこのカレンとダンチェッカーはちょっとだけロマンスも香ってくる。
リンの潜入捜査
スヴェレンセンの本拠地に、リン、潜入捜査!
いやー、いつバレちゃうかとドッキドキでありました!
そういう特殊訓練とかされたことのないリンが、見事な頭脳の回転でしっかり嘘を演じ切り、スパイをやってのけちゃう綱渡り。非常に面白いパートでした。
ホーガンはこういうミッション・インポッシブルみたいなスパイものもやっちゃうんだなー。ほんとなんでもアリだ。
直接対決の舌戦!
仮想空間でついにジェヴレン人との直接対決!
ああ言えばこう言うジェヴレン人代表に対し、テューリアンと地球人の代表が舌戦で次々嘘を暴き立ててゆくのは痛快無比。
あたかも法廷モノのような面白さでありました。
ほんとこのシリーズはあの手この手で楽しませてくれます。
宇宙戦争開幕!
ついに自体は戦争に!
といってもテューリアン側はもちろんのこと、ジェヴレン側も準備不足すぎて戦力は乏しく、その発生する戦争は仮想空間で発生すると言うのが面白かった。
壮大な宇宙戦争なのに、実質一発もビームを撃ちあってないんですね!
そしてその戦争の最大のキーを握るのがわれらがシャピアロン号と言うのも最高だった。
コンピュータが全自動管理する世界であるからこそ、通常艦艇ではジェヴレン側の鉄壁のガードを抜けないが、2500万年前の旧式艦ならそれと突破できるという、これぞ王道のロマンではないですか。
2500万年後のこの時代に生きる場所を見いだせず、どこかやるせない気持ちになっていたガニメアンの艦長たちが俄然やる気になっちゃうところとかたまりません。
一方地球では特殊部隊がスヴェレンセンの館に突入しこちらも一挙制圧。
ハリウッドの王道アクション映画みたいな展開です。
地球で行われる陰謀の拠点を叩きつつ、同時にジェヴレン側の通信遮断に対し、これで唯一の通信回路が開いたという話の持って行き方も上手かった。
大勝利!
地球と、シャピアロン号と、ゾラックと、テューリアンとヴィザーと、すべての力がかみ合って初めて勝利を得たという構図が素晴らしい。
これだけ込み入った宇宙規模の陰謀を見事にひっくり返してしまいました。
一つには一元的にすべてを管理するコンピュータシステムに社会が依存しすぎていることもあるかなーと。
見事な円環
逃走したジェヴレン人たちはなんと時を超え、5万年前のミネルヴァに到達していた!
突如5万年前のミネルヴァに発生したランビアン人種はジェヴレン人だったのだという時の円環。痛快な知的興奮を引き起こされる見事なトリックでありました。
しかしそのランビアンがのちのちのジェヴレン人になったわけで、そのジェヴレン人がランビアンの元となったということは、鶏が先なのか卵が先なのか、最初の卵はいったいどこからきたのでしょうか。
これまたこのシリーズらしい、次へとつながるミステリーの卵かもしれませんね。
人類の明日
人類の明日の可能性について非常に前向きな気分にさせてくれる今シリーズですが、今作もまたさらにすばらしい答えが示されました。
きわめて攻撃的なランビアンは実はジェヴレン人だったわけですし、人類がこれまで愚かな歴史を繰り返し、恐ろしい時代を何度も何度も繰り広げてきたのはジェヴレン人の陰謀だったわけで。
多少他責的になってしまっているかもしれませんが、人類の本質は悪ではないよと教えてくれているかのようです。
悪い奴はいるかもだけど、でも人の本質はそこではないよと。
そして今回明らかになったのは、人の中の攻撃性がもたらしてくれる力ですね。
それは単なる争いをもたらす危険なものではなくて、新たなものを次々作り出してゆく非常に強い原動力でもあるのだと。
ガニメアン、テューリアンとの対比で表されていました。
人はいったいどこまでゆけるのか。その未来に思いを馳せさせる、素晴らしいシリーズ……ひとまず3部作の完結……大満足の完結編でありました!